

透き通る様な、白い肌。その白さと対極にある漆黒の、艶やかな髪。彫りの深い、完璧に整った顔立ち。切れ長の目に埋め込まれた瞳の色は、紅く、まるで大粒のルビーの様に輝いていて……。
「おい、起きろ。」
ハリウッドの売れっ子イケメン俳優も、スタイル抜群のトップモデルも裸足で逃げ出しそうな、人間離れした感のある美を備えたその少年の口から、ドスを利かせた台詞が吐き出された。とろける様な、美声なのに。よくよく見てみれば、眉間にシワまで寄せていて。せっかくの美貌を台無しにしていた。
「おい、いい加減目を覚ましやがれ。」
不機嫌そうな声で、彼は言った。その瞳は、やはり不機嫌を声色以上に物語っていて。思い切り、睨み付けられた。
うすぼんやりしていた思考が次第にハッキリしてくる。ふと気付くと、全身に体温を感じる。……状況から考えて、体温の主はこの男だろう。どっかとあぐらをかいたその足の上に乗せられて、片腕一本で肩を抱かれ、もう一方の手が、ぺちぺちと頬をはたいている。
「……痛い。」
「目は覚めたか?」
少年は、つかまれた己の腕と、開かれた目蓋の下から現れた瞳とを交互に眺めやり、ニヤリと笑った。
第1話「月夜の出来事」冒頭より
