

「……おい、何だ? この小娘は?」
長い――場の空気を鉛の如く重く凝り固まらせるには十分なだけの――長い沈黙ののち、地獄の鬼もかくやという低いうなり声はそう言ったのは。目の前の豪奢な椅子に優雅に腰かけた男で。
床まで垂れた、淡く、青みがかった艶やかな長い銀髪。切れ長の目に埋まっているのは――人にはありえないアメジストの瞳。
そして。ゴシック調の椅子をさらに豪奢に彩るのは――その背に生えた、漆黒の翼。
第1話「因縁の体面」冒頭より
